筆者と語ろう~生き方を知るエッセイ・ノンフィクション
子どもたちが書店や図書館で
手にする本のジャンルは何か?
ほぼ90%はラノベ・文学等の
「物語」ではないかと思うのです。
しかし、読書の楽しみは
「物語」だけではないのです。
エッセイとノンフィクション。
この分野は詩集や新書本に比べたら、
子どもたちにとっては
なじみがあるのだと思うのですが、
問題は中身です。
流行に乗っかった
タレント本が多すぎます。
中学生がはじめに接する
エッセイ&ノンフィクション。
この8冊はいかがでしょうか。
その1:
「旭山動物園12の物語」(浜なつ子)
角川ソフィア文庫
動物園での動物たちの物語。
そして中学校1年生からでも読める、
専門用語を使わない
平易で読みやすい文章。
でもそこで語られていることは
「動物ってかわいいね」だとか
「動物たちを守ろう」のような
平板なメッセージではありません。
失敗を含めた
豊富な経験に裏打ちされた、
高度な「自然観」なのです。
その2:
「春の数えかた」(日高敏隆)新潮文庫
動物学者である筆者の目線から見た
身のまわりの
自然、生物、人間に関わる、
36編からなるエッセイ集です。
1編が5ページ程度と短いので、
中学生でも十分読みこなせます。
その3:
「僕はいかにして指揮者になったのか」
(佐渡裕)新潮文庫
音楽家というと、何かこう、
気むずかしい人が多いような
先入観があります。でも、
佐渡裕は気さくな人だと思います。
テレビで見ていても気さく。
コンサートを見に行きましたが
やっぱり気さく。
およそ指揮者臭のしない人です。
その4:
「記者になりたい!」(池上彰)
新潮文庫
「そうだったのか!池上彰」と
改題した方がいいような
素敵な一冊です。
NHK週刊こどもニュース、
子どもが小さい頃、
一緒に見ていました。
その初代お父さん役の著者が、
32年間のNHK職員時代を
振り返っての一冊です。
その5:
「町工場・スーパーなものづくり」
(小関智弘)ちくま文庫
結論から言いましょう。
本書は子どもたちにイチオシです。
いや、無理にでも読ませるべき。
進路選択における
中学生必読の書と言っていいでしょう。
現代日本を支える中小ものづくり企業、
いわゆる町工場についてのルポです。
その6:
「ときどきの少年」(五味太郎)新潮文庫
本作品は一応エッセイなのですが、
短編小説と言っていいくらいの作品が
収録されています。
「クロス・プレー」などは、
平成の最初のあたり、
中学校2年生の国語の教科書に、
随筆ではなく小説として
掲載されていたくらいですから。
その7:
「父の詫び状」(向田邦子)文春文庫
この向田邦子の
エッセイの素晴らしさは
何よりもまず展開の巧みさです。
世間話のような
さりげない書き出しから始まり、
いくつかの関連のなさそうな想い出が
取り上げられたかと思うと、
それが最後には一つのテーマに
集約していきます。
その展開の実に滑らかなこと。
エッセイというよりは
私小説を読んでいるような
錯覚を起こします。
その8:
「思考の整理学」(外山滋比古)
ちくま文庫
折にふれて
読み返しているエッセイ集です。
それも冒頭の一編「グライダー」を、
何度となく読み返しています。
教職に就いていて、
常に問題意識を持ち続けたいと
思ってのことです。
本書で著者は、学校教育について
苦言を呈しています。
タレント本を
否定するつもりはありません。
私も「壇蜜日記」にかなりひかれました。
でも、得られるものの大きさに
差があると思うのです。
中学校2年生の段階で
こうした価値ある本に触れることは
貴重だと考えます。
そろそろ残り時間が
気になる年齢になってきました。
できるだけ多くの
「価値の高い本」に
出会いたいものだと考えています。
(2020.4.29)